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AIが変える防災の未来地図「AIが変える防災の世界 〜カオスマップを通して考える未来地図〜」 セッションレポート

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「ぼうさいこくたい2025」の一環として開催されたセッション「AIが変える防災の世界 〜カオスマップを通して考える未来地図〜」が、2025年9月に朱鷺メッセ新潟コンベンションセンター2Fの中会議室(201B)にて開催されました。AI防災協議会が主催し、防災DX官民共創協議会が協力したこのセッションは、めざましい発展を遂げるAIを活用し、多種多様な防災ソリューションが生まれる現状を深く掘り下げ、事前防災、発災後の応急対応、被災地支援のあり方が大きく変わる可能性について徹底的に議論するものでした。企業、自治体、科学・技術、防災行政に携わる人々を対象とし、現地参加とオンライン同時配信、後日アーカイブ配信も行われました。


<目次>



第1部: AIが変える防災の世界の現在地とカオスマップ


ファシリテーター臼田理事長から、会場の参加者に「AIを使っている方はどのくらいいらっしゃいますか?」と問いかけたところ、半数以上の手が挙がり、「3年前には考えられない世界です。急激にAIが使われるようになりました」と、AIの普及の速さが進んでいることがわかりました。

 

AIの流行が急激に進む中で、防災にAIを使うことがどういうことなのか、その全体像を一度見てみるべきだという考えから、AI防災協議会として「AI防災ソリューションの現在地を明らかにする試み」としてカオスマップを作成しています。

 

カオスマップとは何か

PwCコンサルティングの林です。本日は、防災分野におけるサービスの全体像を可視化した「カオスマップ」についてご説明させていただきます。まず、私自身の背景として、能登半島地震の後、石川県への支援に関わらせていただいた経験があり、そこでの活動を通じて、防災や災害対応についてより深く考えるようになりました。そうした実感をもとに、今このカオスマップの取り組みに携わっています。

 

このカオスマップは、いわば防災関連サービス全体を俯瞰できる「見取り図(ミトリ図)」のようなものです。多様な企業が提供するソリューションやサービスがどの領域に位置しているのかを整理し、関係者が共通認識を持てるようにすることが目的です。5月からスケジュールを組んで制作を進めており、防災国体での発表を目指していますが、本日お見せするものは完成形ではありません。むしろ「ここからがスタート」であり、ぜひ皆さんと一緒に育てていくものとして捉えていただければと思っています。

 

マップの構成については、「縦軸と横軸をどう設定するか」が大きなポイントになります。今回のバージョンでは、横軸に「データ収集」から「予測モデリング」までの機能やサービスの流れを置き、縦軸には「画像処理」や「時系列データ処理」などの技術要素を設定しています。ただし、これはあくまで一つの見方に過ぎません。軸の取り方を変えれば、まったく異なるカオスマップが現れる可能性がありますし、民間企業、自治体、研究者といった立場の違いによっても、このマップの見え方は変わってくるはずです。

以上のように、このカオスマップが今後多くの視点を取り込みながら発展していくことを期待しています。

 

カオスマップの活用方法

このカオスマップについて、私は主に2つの視点からの活用方法をご提案したいと思います。

まず一つ目は、「数あるサービスの中から、自分たちにとって最も適したものを選ぶためのツール」としての使い方です。今や防災・災害分野には本当に多様なサービスが存在しており、それらを俯瞰して比較検討できることは、導入を考える現場にとって大きな助けになるはずです。

もう一つの視点は、ビジネスの観点からの活用です。具体的には「ホワイトスペース」、つまりまだサービスが展開されていない空白領域を見つけ出すこと。また逆に、競争はすでに激しいものの、市場規模が大きく成長余地のある領域を特定し、そこに参入する判断材料としても役立つと考えています。

マップをご覧いただくとわかる通り、全体的に「白いところ」が少ない、すなわちカバーされていない領域が限られているというのは、非常にポジティブなことだと思います。これは、多くの企業がこの分野で何らかの取り組みをしているという証左でもあります。

 

一方で、私たちとしての課題は、「緑の部分」、すなわちAI防災協議会の会員企業のサービス領域を今後どう広げていくかです。これは協議会としての使命でもあります。

ちなみに、マップ内の凡例として、緑色は「AI防災協議会会員企業のサービス」、グレーは「国内企業のサービス」、そして白い台形は「海外企業のサービス」を表しています。それぞれの位置づけが、今後の戦略や連携のヒントにもなってくるはずです。

 

(臼田理事長)このカオスマップの凡例を見て、私が注目したのは「海外企業のサービスが、データ収集や取得の領域にはほとんど見られない」という点です。おそらくこれは、日本語の扱いや日本特有の状況把握が難しく、海外企業にとって参入のハードルが高いことが一因だと考えています。

一方で、AI防災協議会の会員企業(緑)や、その他の国内企業(グレー)は、非常に幅広い領域で積極的に取り組んでいることが、このマップからもよくわかります。

 

(Spectee村上氏)

カオスマップ全体を拝見して、率直に申し上げると「もう少し“カオス感”があってもよいのでは」と思いました。本来であれば、もっと多くのサービスがひしめき合い、「この領域は本当に活発で、混沌としている」と思えるような状態になってほしいですね。

 

(AI防災協議会理事江口氏)

このカオスマップを見て「空白が多い」「意外と盛り上がってない」と感じました。空白が多いということは「参入しやすい領域」が多いはずです。また、「意外と大手が介入していない領域だ」という点も特筆すべきだと思います。

 

第1部 会場からの質疑応答

会場からは活発な質疑応答が行われました。

 

質問1: カオスマップが「行政編」に限定されている理由

タイトルに行政編とあるが、なぜ行政に限定して整理されたのか。民間向けのカオスマップも作成されるのか?

回答

まずは行政から作成しました。今後、利用用途などを検討しながら、民間向けや一般市民向けも拡充していきたいと思います。一般市民向けのAI防災サービスはまだ数が少ない印象です。

 

質問2: カオスマップが拡大した場合の導入課題

「カオスマップのサービスが増えると、行政職員はどれを選べば良いか、またデータ連携をどうすれば良いかという課題が生じるのではないか」

回答

防災のマーケットは行政が主体であり、行政がデータをうまく外部に出すことから始めることが重要になります。サービス間の違いを行政が選ぶ必要もあるため、そのための情報も必要です。

 

質問3: カオスマップ最下部の空白部分

 「カオスマップの最下部にある横の行が空白になっているが、どのような技術や世界観をイメージしているのか」

回答

「『自立支援システム・シミュレーション』の領域を想定しています。エージェント的なAIや、自己判断で動くようなものがここに入り、埋まっていくことを願っています。また、AIエージェントの概念は出始めたばかりで、まだ防災分野では生まれていない状況であり、この空白が参入しやすい領域である可能性があります。

 

質問4: 技術と課題解決の視点

「技術の整理だけでなく、地域防災の課題解決にどう繋がるかという視点が見えると使いやすい。『罹災証明の迅速化ソリューション』のように、具体的な解決策が技術名からイメージできると良い」という要望が寄せられました。

回答

 カオスマップの横軸は『予測モデリング』で閉じていますが、『罹災証明の迅速化』のように業務のさらに先に繋がる部分も表現すべきです。現状のAIサービスはデータ取得から予測モデリングに偏っているため、全体像を見せることで、まだやるべきことがあるという可能性を示せるのではないか。

 

(臼田理事長のコメント)

カオスマップの今後の展望について、私は空白領域を可視化し、現時点で何が不足しているのかを明確にすることが非常に重要だと考えています

また、AI防災協議会の会員企業だけでなく、それ以外の企業や研究機関による取り組みも積極的に掲載し、新たな連携や参入を促す「公開型のカオスマップ」として育てていきたいという思いがあります。

そのためにも、今回ご参加いただいた皆様からのご意見を今後の更新に反映しながら、より開かれた、実用的なマップへと進化させていきたいと考えています。どうぞ引き続き、ご協力とご参画をよろしくお願いいたします。



第2部: AIと防災で描く未来世界

第2部では、パネリストの各氏が関心のある領域における未来予想図をキーワードと共に語り、その実現可能性や課題について議論が展開されました。


林 泰弘氏 (PwCコンサルティング合同会社)

キーワード: 「デジタル広域連携」

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私は、能登半島地震の後に石川県での支援活動に関わったことをきっかけに、PwCの社内に「Resilience Initiative」というチームを立ち上げました。そこから、本格的にレジリエンス(回復力)をテーマとした取り組みを進めています。

その中でも私たちが注力しているのが、「デジタル広域連携」という考え方です。これは、離れた自治体や地域であっても、デジタル空間をうまく活用すれば、共通する課題を同じSaaS型のAIサービスで解決できるのではないか──という仮説に基づいた取り組みです。

もちろん、デジタル技術そのものが主役ではありません。私たちが大切にしているのは、人と人との関係性や、地域コミュニティそのものです。だからこそ、デジタル空間はあくまでそれを補い、つなげるための手段だと考えています。

例えば、防災だけでなく、教育や介護といった他の分野でも、地域ごとに強みのある自治体が連携を担うといった使い方が可能です。水害対応に知見の深い自治体の取り組みを、他地域にも広げていく──そうしたことが、デジタル空間を通じてより柔軟に実現できるようになります。私たちはこれを「持ち持ち」の関係と呼んでいます。つまり、地域ごとの知見や強みを持ち寄り、AIを活用しながら互いに補い合い、新たな連携の形やコミュニティづくりに挑戦している、ということです。


村上 建治郎氏 (株式会社Spectee)

キーワード: 「完全自動化の災害対応」

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私はSpecteeを立ち上げるきっかけとなった出来事として、東日本大震災の際の経験をお話ししたいと思います。

当時、宮城県南三陸町で、住民に避難を呼びかけ続け、津波に巻き込まれて亡くなられた女性職員の方の存在を知りました。私はその出来事がずっと心に残っています。そして、もし今だったら、AIを活用して自動音声で避難を促したたり、ドローンが住民を誘導することで、あの悲劇を防げたかもしれないと、思います。

人の力だけで災害対応を担うには、やはり限界があります。だからこそ、私は「できるだけ自動化を進めること」が、これからの防災の姿だと考えています。

たとえばサンフランシスコでは、無人の自動運転タクシーがすでに実用化されています。同じように、将来的には災害現場に人が足を運ばずとも、ロボットやドローンが代わりに状況を確認し、データを収集し、対応を行う──そんな仕組みを構築していきたいのです。

そうした世界が実現すれば、人間は人間にしかできない役割、たとえば避難所での高齢者のケアや、心のサポートといったことに集中できるようになる。私はその未来を、AIとともに切り拓いていきたいと考えています。


鈴木 智惠子氏 (佐賀大学医学部看護学科)

キーワード: 「情報収集から避難経路、そして避難所の生活」

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第1部で提示されたカオスマップを拝見して、私が特に関心を持っている領域が、最下部にある「自立支援システム」や「シミュレーション」といった空白の部分であることに気づきました。正直なところ、そこに企業が一社も入っていないことに、私は少なからずショックを受けました。

私が目指しているのは、AIを活用して情報を収集・分析し、そこから得られる予測に基づいて、住民一人ひとりが自ら判断し、行動できるように支援する仕組みをつくることです。避難に関して言えば、命に関わる問題であるため、現時点ではAIが直接「この道を行け」と指示するのは難しい面もあります。

しかしながら、防災訓練などの平時において、子ども、高齢者、病人、車椅子の方など、住民の属性に応じた最適な避難経路をAIが提示することは可能だと考えています。そうしたデータをもとに、個別避難計画──いわゆる個別支援計画書──を作成し、住民の行動を後押しすると同時に、行政側の負担も軽減できるのではないかと感じています。

さらに、避難所生活における医療支援にもAIが貢献できると考えています。医療者不足は全国共通の課題ですが、AIが毎日個々人の健康状態をアセスメントし、「そろそろ病院に行った方がよいかもしれません」や「主治医に相談してみましょう」といった形でアドバイスを出すことで、住民の自己判断と行動を支えることができます。

実際、多くの方がAIからの情報には耳を傾けやすい傾向があります。これは、支援する側にとっても心理的・実務的な負担を軽くする効果があると感じています。

私は、AIをうまく活用することで、災害時に最も支援が必要とされる方々──いわゆる災害弱者の方々──への支援体制をより強固にし、減災の実現に貢献していきたいと考えています。


曽谷 英司氏 (イームズロボティクス株式会社)

キーワード: 「完全自立自動、目視外」

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私はイームズロボティクスで、ドローンの開発および運用サービスを担当しています。能登半島地震での経験は、私たちにとって大きな学びとなりました。

その現場で強く感じたのは、「とにかくドローンをたくさん飛ばして、できるだけ自動で、長距離の撮影とデータ収集を行うこと」が、災害対応において非常に求められていたという点です。現在では、撮影した写真や映像をAIで解析する技術も進んでおり、赤外線カメラを用いた人の検知なども実用段階に入っています。今後は、生成AIの進化によって、ドローン自身がその場で画像を解析し、「ここに3人います」「この地点で土砂崩れが発生しています」といった情報を、映像ではなくテキストで即座に送信するような仕組みも実現しつつあります。これにより、通信負荷を抑えながらも、現場の重要な情報を正確に伝えることが可能になります。

一方で、私があえて強調したいのが「目視外飛行」というキーワードです。現在の法制度では、夜間の飛行や市街地での目視外飛行には多くの制限があります。しかし、災害は昼夜を問いません。24時間体制での長距離飛行を本格的に実現していくためには、やはり法制度の見直しが必要だと感じています。

私たちはこれまでの現場経験をもとに、AIとドローンを掛け合わせた新たな災害対応の形を追求し、被害を最小限にとどめるための革新に取り組んでいます。技術の力を、いざというときに確かな支えとなるよう、社会全体で活かしていければと願っています。


江口 清貴氏 (AI防災協議会 理事 / 神奈川県CIO兼CDO)

キーワード: 「(     )」

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私は、日々AIの動向を追っている中で、あらためて皆さんに問いかけたいことがあります。「3年前に、いまのAIの進化を予測できた人がいたでしょうか?」おそらく、ほとんどいなかったのではないかと思います。それほど、AIの進化は驚くべきスピードで進んでいます。

AI防災協議会を立ち上げた際に、私たちはこの活動に「AI防災」という名前をつけました。当時は少し先走りすぎたかもしれませんが、いま振り返ると「けっこう良いネーミングだったな」と、少し自画自賛したい気持ちもあります(笑)。ただし、あの頃のAIと今のAIは、まったくの別物です。

とくにChatGPTの登場以降、社会の常識そのものが大きく変わりました。そして、GPT-5のようなより高度なモデルも次々に登場し、AIは「週単位」ではなく「日単位」でアップデートされ続けています。今や「AIがAIを生み出す時代」に入り、真っ白なキャンバスの上で、新たな仕組みが次々と描かれているような感覚があります。

加えて、マルチモーダルAIや、日本独自の事情に即したローカライズAI、さらには行政の内部情報を安全に扱えるAIなど、これからの技術には無限の可能性があります。

また、私はこれからのデジタル化は「デバイスに依存しない世界」に進んでいくと考えています。つまり、スマートフォンやPCを意識することなく、空間に設置されたスピーカーやカメラを通して自然にAIと対話できる。人が“デジタルを使っている”という意識すら持たない世界──それが次の段階だと見ています。

私はこれまで、行政・民間・研究それぞれの立場から防災DXを推進してきました。目指しているのは、災害時に、本当に必要な情報と支援が、迷いなく、必要な人に届く社会です。AIを信頼できる道具として育て、その力を社会に生かしていくことが、私たちの大きな使命だと考えています。


質疑応答


質問1: 学生の視点から見たAI防災の未来

現在の防災アプリは、災害時にアラートや情報を通知してくれるものが多いと感じています。ただ、その情報を受け取ったあとに、「自分はどう行動すればいいのか」まで導いてくれる仕組みがまだ不足しているのではないかと感じています。できれば、実際の行動につながるような支援機能を持ったアプリケーションがあると安心だと思います。

また、個人情報の取り扱いが難しいことは承知していますが、たとえば自分の状況や希望を、自分の判断でAIに提供できる仕組みがあれば、もっと柔軟な対応ができるのではないかとも思いました。たとえば、「ペットと一緒に避難したい」「オストメイト対応のトイレが必要」「特定の備蓄食品が欲しい」といった個々のニーズに合わせて、最適な避難所を案内してくれるようなパーソナライズされた情報提供が実現できれば、多様な人にとってより安心な防災支援になるのではないでしょうか。

 

(コメント)

村上です。今回のカオスマップを見て、「支援」領域がまだ少ないことに課題を感じました。これまでのAIは主にデータ収集やアラート発信が中心でしたが、今後は人の行動を促し、支援につなげるAIが重要になると考えています。ChatGPTのような技術が進化すれば、一人ひとりの状況を理解し、「今すべき行動」を具体的に示してくれるAIが登場してくると期待しています。

 

鈴木です。私の研究テーマは、「一人ひとりの意識を変え、主体的な行動を促すこと」です。しかし実際には、企業に相談しても「難しい」と言われることが多く、課題の大きさを感じています。

ただ、住民が自ら動くようになれば、行政の負担は確実に軽減されます。佐賀県での災害支援では、自治体職員の方が数日間帰宅できない状況を目の当たりにし、「行政を支える仕組みが必要だ」と強く感じました

これからは、住民自身も「行政に頼る側」から「一緒に支える側」へと意識を転換していくことが大切だと思っています。



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臼田理事長私は、直接的な支援だけでなく、「一人ひとりが助かるAI」こそが、結果的に行政の負担軽減につながると考えています。そうすることで、行政は「人にしかできない支援」にしっかりと力を注げるようになります。


曽谷氏

能登半島地震では、孤立した集落の状況が把握できず、対応に苦慮した経験がありました。そこで現在、衛星電話を届け、現地の声を把握し、医薬品などを輸送する「三役ドローン」の開発を検討しています。

また、福島県で策定されたドローン活用ガイドラインについても、能登での経験をもとに改訂作業を進めているところです

さらに臼田理事長から、「住民がドローンに向かって『助けて』『薬が欲しい』と呼びかけ、それをAIが認識するような使い方は可能か」との問いをいただきましたが、技術的には十分に可能です。指向性マイクとAI音声解析を組み合わせれば、住民発の支援要請をドローンが拾う未来も見えてきます。ドローンの役割は、今後さらに広がっていくと感じています。

 

 

質問2: AI適用における信頼性とブラックボックス問題 

AIが予測や自動化を担う場面が増える中で、災害現場のようなミッションクリティカルな領域では、「本当に信頼してよいのか」という不安があります。とくにモデルの中身がブラックボックスだと、行政がその判断を委ねることに慎重になるのは当然だと思います。だからこそ、企業任せではなく、社会全体でサービスを検証・バリデーションできる仕組みが必要ではないでしょうか。

また、これに関連して、会場からは別の視点での指摘もありました。行政側の情報自体もブラックボックスであることが多く、たとえば災害対策本部会議の資料が公開されないなど、情報公開のルールが不明確です。こうした状況では、企業が行政の意図を正しく理解し、AIに反映させるのも難しいという課題があると思います。

 

(コメント)

村上氏

私たちの会社では、洪水予測モデルについて国の認可をいただいた経験があります。その際は、膨大なデータを提出し、モデルの仕組みを丁寧に説明し、何度も検証を重ねた上での認可でした。一方で、他の多くの防災AIシステムには、そうした認証プロセスが存在しないのが実情です。そのため、自治体としては「信頼できるか分からないものは使いにくい」という不安を抱えてしまいます。誰が、どの基準で“お墨付き”を与えるのか――その仕組みの不在が大きな課題だと感じています。だからこそ、先進的に導入した自治体の実例や、実際にどのような成果が得られたかを、積極的に公開・共有していくことが重要だと考えています。

 

江口氏

私は、「AIは確実でないから使えない」という議論には違和感があります。たとえば、人を相手にする仕事でも、新卒2年目の部下が作った資料をそのまま使うことはなく、必ず確認しますよね。AIもそれと同じで、使い方次第で十分に信頼できるパートナーになります

人間だって、ある意味それぞれがブラックボックスです。AIも人を補完する存在として、同じように捉えるべきだと思います

 

臼田理事長

私は、複数のAIに同じ問いを投げかけ、その回答の幅を見た上で人が最終判断するという活用の仕方も考えられると思っています。

また、行政の情報公開については進めるべきだと考えますが、すべてをオープンにすれば良いというものでもありません。たとえば、住民からの通報とAIの広域予測が食い違うような場面では、行政として非常に難しい判断を迫られます。今後、AIが入ることで、その判断のプロセス自体も変化していく可能性があると感じています。

 

質問3: 既存ルールの改革と技術の役割災害対応の現場では、たとえば罹災証明の手続きなど、今のルールや運用が非常に非効率で、正直言って問題が多いと感じています。そうした“よくないプロセス”が、技術によってそのまま固定化されてしまう危険性があるのではないか――私はそこに強い懸念を持っています。


臼田理事長「技術が“良くない道”を固めてしまっているのではないか」というご指摘は、まさに的を射ていると思います。DXのプロセスには、①デジタイゼーション(情報のデジタル化)、②デジタライゼーション(業務プロセスのデジタル化)、③デジタルトランスフォーメーション(構造的な変革)の3段階がありますが、多くは②の段階で止まってしまっているのが現状です。

本来、アナログなら柔軟に対応できていたことが、デジタル化によってかえって硬直化し、身動きが取れなくなるケースも見られます。だからこそ、DXの本質は「壊すこと」でもあり、既存のやり方を乗り越えるための設計が必要だと考えています。

 

曽谷氏ドローン業界も、ルールの硬直化という課題を抱えています。私たち業界団体としても、制度改正に向けた働きかけを地道に進めているところです

省庁だけではルールを変えることが難しい場合も多いため、国会議員の方々を通じて法改正を提案するなど、立法面からのアプローチも行っています。こうした積み重ねが、現場のニーズに応じた制度づくりにつながると信じています。

 

林氏

災害時に多目的で活用できるよう、内装を着脱式にした公用車の事例をご紹介しました。平常時は投票所として、災害時は簡易トイレや避難スペースとして使える仕様です。

現在、こうした取り組みを全国の自治体に広げる動きも進んでおり、実際に首長自らが黒塗りの公用車からタウンエースに切り替えたという先進的な事例もあります

 

臼田理事長私は、行政職員の皆さんを「優れたドライバー」に例えています。正しいルートを確実に運転できる彼らが、よりスムーズに進めるように、技術は支える存在であるべきだと考えています。遠回りさせるような仕組みではなく、時には壁を壊して、新しい道を切り拓く必要がある。そして、そうした変化や進化の過程を示すカオスマップがあっても良いのではないかと感じています。

 

 

質問4: AI防災における連携の重要性各AI防災ソリューションの重要性は十分に理解できました。ただ、今後さらに重要になるのは、これらの技術をどう連携させていくかだと考えています。たとえば、ドローンによるAI解析を避難経路の提示につなげたり、避難の呼びかけを自動化したり、広域での連携を実現するといった形で、個別の技術を統合していく視点が不可欠ではないでしょうか。

林氏「連携の重要性を改めて認識した。現状では考えが及んでいないが、参考にし、今後チャレンジしたい」です。

 曽谷氏

私は、システム上の機能マップと、現場で本当に求められている機能マップを照らし合わせてマッチングさせる方法が有効だと考えています。

今後は、まず現場の声を丁寧に聞きながら必要な機能を整理し、それをもとにシステムでどうカバーできるかを検討するフェーズに入っていきたいと思っています。

 

会場から

「防災国体そのものが一つのカオスマップであり、参加者同士の交流が『連携』だ」という意見が出ました。さらに、「防災国体での人流データを取得し、誰がどのブースに興味を持ったかなどを可視化できれば、コミュニティとしてより成熟するのではないか」という具体的な提案もなされました。

 

 臼田理事長、

防災DX官民共創協議会では、避難所生活支援に関わるサービスを集め、実際に体験しながら、どう連携できるかを議論するイベントを実施したことがあります。

参加者同士が互いのサービスを体験し合うことで、非常に活発な意見交換が生まれました。こうした実践の積み重ねによって、カオスマップもより進化し、「このサービスとこのサービスがつながる」といった関係性も、より具体的に見えるようになると感じています。

 

 

質問5: AIと規制、国内と海外の視点

デジタルガバメント業務に携わっている立場から、1点お伺いしたいことがあります。AIは国境を越えて発展する技術である一方で、防災の取り組みはどうしても国内に閉じた形になりがちです。現在、EUをはじめとする各国でAIに関する法整備が進んでいる中で、日本における「AI防災」の規制やルールづくりはどのように考えるべきか、その方向性についてご意見を伺いたいと思います。

(コメント) 林氏私の個人的な見解として、日本のAIに関する法制度は、EU型の厳格な規制と、米国型のガイドライン中心のアプローチの中間に位置しており、規制と産業振興のバランスが比較的うまく取れていると感じています。

とくに注目しているのは、国や行政機関がAIを積極的に活用することを後押しする内容が含まれている点です。防災分野においても、これは「AIを使ってよい」という背中を押すようなメッセージとして受け取っており、今後の実装に向けた追い風になると考えています。

 

村上氏

現在、多くの基盤AI──たとえばChatGPTのようなモデル──は海外製であり、日本はAIの開発競争において後れを取っているのが現状です。また、ドローンや衛星通信のインフラであるスターリンクも海外製が中心で、日本の技術が十分に活かされていない状況には、正直なところ寂しさを感じています

一方で、日本のAI法制度については、規制と活用のバランスが比較的うまく取れており、特に自治体がAIを活用するうえで大きな制約はないと見ています。

 

説明:個人情報保護法について

AI防災協議会の岡本氏が補足として、「個人情報保護法は『保護』ではなく、『情報流通のための取り扱い』の法律である」と解説しました。ネーミングから「保護しなくては」という意識が先行し、災害時に安否確認や情報開示を妨げるボトルネックになっている現状を指摘。技術があっても、個人情報の壁とデータベースの議論が遅れたことが課題であり、国民啓発が必要だと訴えました。 臼田理事長も、個人情報保護法は「個人の利益、権利のために情報をどう取り扱うか」の法律であるはずだと同意し、ネーミングで誤解され、本当にやるべきことが届いていない現状があると述べました。

 

セッションの締めくくり「パネリストからのメッセージ」

林氏(PwCコンサルティング)

私は、未来を考えるときに思考を狭めないことを大切にしています。AIモデルやチップの性能が、数年後には今の10億倍になるかもしれないという可能性を示す説に基づいています。そのために、「10億倍」という数字を常に頭の片隅に置いています

 

村上氏(Spectee)

DXという言葉が広く使われていますが、私はそれを単に「既存プロセスのデジタル化」と捉えるべきではないと思っています。むしろ、ゼロベースで考え直し、新たなアイデアや価値を生み出す“イノベーション”が必要です。たとえば、罹災証明の在り方も、本来の目的に立ち返りながら、まったく新しい形に再構築するべき時期に来ているのではないかと感じています。

 

鈴木氏(研究者/防災行動支援)

デジタル化が進んでも、人間の判断を大切にする視点は絶対に忘れてはいけません。AIが導き出した結果に対しても、人間が確認・判断するプロセスは必ず必要です。AIの出力をそのまま受け入れるのではなく、最後の意思決定には人が関与する――この姿勢を持ち続けたいと思います。また、本日の曽谷さんとのドローンに関する議論は、社会実装の可能性について多くのヒントを得ることができ、大変感謝しています。

 

曽谷氏(イームズロボティクス)

能登半島地震の現場では、医薬品の配送(厚労省)、物流(国交省)、現場全体の統制(自衛隊)といった、官庁間での連携がまだまだアナログであることが大きな課題だと実感しました。今後は、デジタルの力でシームレスに連携できる仕組みと、それを可能にする法改正が必要です。現状では、「すぐにドローンを飛ばしたくても、飛ばせない」状況が多くあります。けれども、すぐに飛ばさなければ意味がないのが災害対応です。この現実を変えていきたいと強く思っています。

 

江口氏(AI防災協議会)

少し正直に言うと、私は「なるべく働きたくない」という気持ちがあるので、AIにとても期待しています(笑)。そのためには、日常の行政業務における文書や記録をすべてデジタル化・データ化し、AIに学習させることが重要です。私一人の力では到底できませんので、ぜひ皆さんのご協力をいただきながら、私が少しでも楽をできる社会(笑)、ひいては誰もが無理なく働ける社会を目指していきたいと思っています。

 

臼田理事長(ファシリテーター/AI防災協議会)

今日のセッションには、AIでは簡単に要約できないような「本質的なポイント」がいくつも含まれていたと感じています。今後、セッションの動画が公開された際には、ぜひAIで要約を試してみてください。その結果、抜け落ちている部分をそれぞれが自分のメモで補い、来年のセッションでその進捗を共有できれば嬉しいです

 

AI防災協議会が新規会員を募集していること、デジタル避難受付のデモや広報資料の提供があることを案内し、セッションは盛況のうちに終了しました。

 

 





 
 
 

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