【10月講演】マンション法改正と管理組合の課題
- anzenmanshonproject
- 11月9日
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更新日:11月11日
2025年4月に施行されるマンション関連法(区分所有法、マンション管理適正化法など)の改正について専門家をお招きしお話を伺いました。平常時のマンション管理の円滑化を目指す法改正の内容に焦点を当て、所在等不明区分所有者の集会決議からの除外や、集会における出席者多数決制度の導入、区分所有者の相互協力責務の新設といった点の説明をいただきました。さらに、外部管理者制度の導入がもたらすメリット(役員負担の軽減)とデメリット(区分所有者の関心低下や費用増大、軌道修正の困難さ)に焦点を当て、特に利益相反取引への対処や監事の重要性について、組合員による主体的管理の維持の観点から慎重な検討を勧めています。

日 時: 令和7年10月26日
講演者: 弁護士 内田 耕司(オアシス法律事務所)
テーマ: 区分所有者の責務と外部管理者制度 ~「外部管理者」に思うこと~ / マンション法改正と管理組合
1. マンション法改正の主要テーマと基盤思想
今回の法改正は、区分所有法、マンション管理適正化法、マンション建替等円滑化法(改正後はマンション再生等円滑化法)、被災マンション法を中心とする広範な改正であり、施行は原則として令和8年4月1日です。
講演では、改正内容のうち「平時の管理組合に関わってくる改正内容」(区分所有建物の管理の円滑化を図る方策)に焦点が当てられました。建替えや区分所有関係の解消といった「マンションの終着点」に関する規定(第2以降)については、日常的な管理で直面する話題ではなく、専門家(弁護士、マンション管理士)やデベロッパーの助けなしには対応が困難であると指摘されています。
1-1. 区分所有者の責務(相互協⼒責務)の創設
改正法では第5条の2として「区分所有者の責務」(相互協⼒責務)が新設されました。これは、区分所有者が建物等の管理が適正かつ円滑に行われるよう、相互に協力しなければならないとするものです。
位置づけと課題: 一読すると「当たり前のこと」に感じられますが、この規定は、マンション管理における区分所有者の相互協力という思想を法的な基盤に据えるものです。
法的効果: 従来の第6条(共同の利益背反行為の禁止)違反とは異なり、この相互協⼒責務の違反に対しては、使用禁止や競売請求といった制裁的措置は特に用意されていません。内田弁護士は、これを今回の法改正の根幹をなす「基盤の思想」と捉え、「頑張ろうとする区分所有者」と「そうでない区分所有者」の間に合理的な線引きをする考え方(例えば、所在等不明者の決議からの除外)に繋がるとしています。
2. 集会決議の円滑化と財産管理制度
管理の円滑化に向け、集会決議の多数決要件の緩和や、管理に特化した財産管理制度が導入されます。
2-1. 所在等不明区分所有者の除外
第38条の2により、区分所有者を知ることができない場合やその所在が不明な場合、裁判所の決定により、その区分所有者以外の者(一般区分所有者)によって集会決議が可能となる仕組みが導入されました。
課題: 裁判所に申し立てる際、「必要な調査をやり尽くした」という疎明資料の提出が求められます。調査には、登記、住民票、戸籍の附票、管理組合の名簿、弁護士による契約者情報照会など、専門家の助けが必要となるケースが多いでしょう。
2-2. 出席者多数決制度の導⼊
建替えや区分所有関係解消など**「区分所有権そのものの帰趨にかかわる内容」以外の決議**について、出席した区分所有者及びその議決権の各過半数で議事を決することができるようになりました(新しい第39条第1項)。
対象: 普通決議に加え、共用部分の変更、復旧、規約の設定・変更・廃止、義務違反者への措置(使用禁止・競売請求)、管理組合法人による区分所有権等の取得など、特別決議事項の一部にも適用されます。
定足数: 改正法では、集会出席の定足数が「区分所有者の過半数(半数以上ではない)の者であって議決権の過半数を有するもの」と明確化されました。管理組合は、この改正区分所有法の強行規定に合わせ、管理規約の改正を行う必要があります(標準管理規約も改正済み)。
2-3. 管理に特化した財産管理制度
所有者不明や管理不全の専有部分および共用部分について、管理を円滑化するための三つの制度が新設されました。
所有者不明専有部分管理制度: 区分所有者不明・所在不明の場合に、裁判所が管理人を選任する制度。管理人は総会招集通知を受けますが、管理費等の納付義務自体は区分所有者に残ります。
管理不全専有部分管理制度: ゴミ屋敷や悪臭発生など、管理が不全で周囲に迷惑をかける専有部分に対し、裁判所が管理人を選任する制度。
◦ 起こりうるトラブル: 区分所有者が徹底的に抵抗し、管理者の管理遂行を妨害した場合、裁判所は管理命令を取り消すしかなく、従来の義務違反者への対処法(59条競売等)に戻らざるを得ない可能性があります。この制度の実効性については、弁護士個人の見解として疑問が示されています。
管理不全共用部分管理制度: 管理組合の機能不全により共用部分の管理が不全となり、第三者の安全確保が危ぶまれる場合に、マンション外の利害関係人が申し立てる仕組みです。
2-4. 専有部分の保存・管理の円滑化
国内管理人制度(第6条の2): 国内に住所・居所を有しない区分所有者について、国内管理人を選任できる制度。管理規約で選任を義務付けることも可能ですが、選任しない場合の直接的な法的制裁は用意されていません。経済的な誘導策(運営協力金の上乗せなど)で対応することが考えられます。
専有部分の使⽤等を伴う共⽤部分の管理(配管の全⾯更新等): 共用部分の変更や管理に伴い、専有部分の保存行為等が必要となる場合に、総会決議事項とすることが可能になりました。
◦ 課題: この適用には「規約に特別の定めがある」ことが要件とされており、この改正は、「団体意思決定による工事には区分所有者の協⼒義務が当然にある」という従来の考え方から後退している印象があり、管理組合の手続的負担が重くなる可能性があります。
3. 外部管理者制度のメリット、デメリット、およびコントロールの課題
外部管理者制度は、区分所有者の負担軽減と専門知識の活用を可能にする一方で、「区分所有者は頑張ろう」という法改正の基盤思想と、「金銭負担でお任せもあり」という発想の間にジレンマを生じさせています。
3-1. メリットとデメリット
メリット | デメリット |
役員の担い手不足への対処(負担軽減) | 区分所有者の関心低下(特に理事会なし・総会監督型) |
専門的知識や経験を有する者の活用 | 費用増大(管理業務委託契約+管理者委託契約の対価) |
軌道修正の困難さ(外部管理者体制からの離脱の困難さ) |
3-2. 利益相反と管理組合による監督
外部管理者(管理会社)が導入された場合、管理組合によるコントロールがより重要になります。
利益相反取引の規制: 改正マンション管理適正化法(第77条の2)により、管理者となった管理会社が利益相反のおそれがある取引(例:グループ会社との修繕工事契約)を行う際、事前に区分所有者等への説明会開催と重要事項の説明が義務付けられました。
大規模修繕工事: 管理会社が管理者である場合、大規模修繕工事の発注先選定において利益誘導が容易になるリスクがあります。この公正を確保するため、修繕委員会の組織と区分所有者の当事者意識が極めて重要となります。
監事の重要性: 外部管理者を導入する場合、管理者に対するチェック役としての監事の役割が非常に重要になります。しかし、監事すら外部に依頼し、その候補を外部管理者が紹介するような場合、チェック機能が機能しない懸念が生じます。
3-3. 外部管理者体制からの離脱の困難さ
外部管理者制度は、一度導入すると軌道修正の難易度が非常に高いことが最大の課題です。
管理会社からの離脱: 管理会社が管理者業務から撤退を希望する場合、通常3ヶ月程度の移行期間が設けられますが、管理を「お任せ」していた管理組合が、その短期間で新しい管理体制(理事会体制など)を構築することは困難であることが予想されます。
組合員理事長方式への回帰: 組合員主体の体制に戻す場合、管理規約の改正が必要です。管理者である管理会社が、自身を解任する議案や規約改正案を積極的に提出するとは限らず、区分所有者(組合員)が自発的に1/5以上の賛成を集めて総会を招集する(1/5集会)などの多大な労力を必要とすることになります。
4. まとめと管理組合への提言
区分所有法改正は、時代のニーズに応じた管理の円滑化を目指すものですが、その裏側にある思想や、新制度導入に伴うリスクを理解することが不可欠です。
4-1. 専門家としての客観的提言
区分所有者の主体性の堅持: マンション管理の担い手はあくまでも区分所有者(組合員)であるという原則を外すべきではありません。管理会社による管理業務だけに「お任せ」の状態を避けるべきです。
外部管理者制度導入への慎重な検討: 役員の負担軽減というメリットはありますが、導入後は軌道修正が困難であり、管理組合の主体性を失う「落とし穴」となるリスクがあります。導入を検討する際は、費用負担の増大、監事の独立性、そして離脱時の困難さについて、深く掘り下げた検討を行うべきです。
法改正への対応(規約改正): 令和8年4月1日の改正法施行に合わせ、標準管理規約改正を参照し、自らの管理規約が区分所有法の強行規定に抵触しないよう、必要な改正手続き(定足数の見直し等)を速やかに進める必要があります。
重要決議における合意形成の徹底: 共用部分の変更決議など、多数決要件が緩和(3/4から2/3へ)された例外規定が設けられましたが、安易に緩和規定に頼るべきではありません。実際的な工事の実施においては、圧倒的多数(3/4以上)の賛成を得ることで、その後の紛争や困難を避けるべきです。そのための丁寧な事前の説明と議論が求められます。
コミュニティと情報共有の強化: 外部管理者の有無にかかわらず、管理組合の「自立」の土台となるのは「コミュニティ」と「情報共有」です。管理組合全体で、自分たちの手に管理を担っているかチェックすることが重要です。




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