マンションの「コミュニティ」のあり方ーネイバーフッドデザイン
- anzenmanshonproject
- 5月28日
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更新日:6月3日

みなさんのマンションでは、住民同士のコミュニティづくりは進んでいますか?
今回のセミナーは、コミュニティづくりを担うHITOTOWAの高村和明氏をお招きし「ネイバーフッドデザインとマンションコミュニティ」に関する講演を行いました。現代社会における人々のつながりの希薄化や多発する自然災害といった課題を踏まえ、新しい形の地域コミュニティのあり方、特にマンションにおける「ご近所付き合い」の重要性とその具体的な手法、事例についてご説明をいただきました。後半は、会員管理組合より質疑応答を行い、管理組合の運営を円滑に進めるためにも、住民同士の協力関係を築くことの大切さが改めて認識されました。
1. ネイバーフッドデザインとは何か

「ネイバーフッドデザイン」とは、人々のつながりをつくりながら、都市や暮らしの課題を解決していく取り組みを指します。ここでいう「ネイバーフッド」とは、ご近所や地域で暮らしを営んでいる人々やその集まりであり、「デザイン」とは、そうした人々との間にゆるやかな信頼がある関係性を育む取り組みのことです。
マンションの管理組合活動は、自治会とは異なりコミュニティ作りとは距離があると思われがちですが、活動を円滑に進める上で住民同士の協力関係はとても大切です。ネイバーフッドデザインは、この「なぜ必要なのか」という点を丁寧に説明するところから始まります。

2. なぜ今、ネイバーフッドデザインが必要なのか
ネイバーフッドデザインが重視される背景には、現代社会が直面するいくつかの重要な課題があります。これらは単なる賑やかしではなく、暮らしにおける具体的な問題解決につながるからです。

社会的な孤立の進行:
日本では、特に60歳以上の高齢者において、親しい友人がいない人の割合が他国に比べて高いというデータがあります。さらに、コロナ禍によって人との接触機会が減り、社会的な孤立が加速した側面もあります。
頻発する自然災害:
日本は地震だけでなく、風水害(洪水、集中豪雨など)も多い災害大国です。こうした災害発生時には、自分自身を助ける「自助」や行政による「公助」だけでなく、地域での「共助」が不可欠です。阪神・淡路大震災の事例では、人命救助の約8割が近所の人々によって行われたというデータがあり、災害を乗り越える上でご近所同士のつながりが非常に重要であることを示しています。
子育て支援の必要性:
核家族化が進み、かつてのように親族だけで子育てを支えることが難しくなっています。地域で支え合う仕組みの必要性が増しており、隣人や近所の仲間、助けてくれる人の存在が子育て世帯の助けとなります。
高齢者の見守り:
高齢者の見守りにおいても、普段からの関係性があれば、何かあった時に気づいたり、ささやかな支援につながったりします。パートナーを亡くし家に塞ぎ込んでいた方が、鉢植えの水やりをきっかけに外出できるようになった事例は、地域とのつながりが心の回復を助ける一例です。
これらの課題は、地域とのつながりがなくならないために備えが必要であり、普段から助け合える関係性を作っておくことが大切です。
3. ネイバーフッドデザインの手法
これまでの実践から得られた知見を体系化し、「メソッド」としてまとめています。これは、単にイベントを実施するのではなく、より効果的にネイバーフッドデザインを進めるための考え方と手法です。
まず重要なのは、活動の目的を明確にすることです。コミュニティを作ることが「目的」ではなく「手段」であり、その先にどのような未来像を描き、何をゴールとするのかを、調査分析に基づいて設定します。そして、メソッドをデザインする上での主要な要素として、以下の4つが挙げられます。

機会: 人々が出会い、関わるきっかけとなるイベントや活動9。
主体性: 地域に関わる人一人ひとりが、できる範囲で主体性を持ち寄ること。関わること自体がその人の楽しみや幸せにつながることも重要です。参加方法は人それぞれ異なるため、運営側はいろいろな関わり方を想定する必要があります。
場所: 人々が集まり、活動するための物理的な空間。場所ありきではなく、未来像や使い方から考え、ハードとソフトを両立させることが大切です。
見識: 地域やコミュニティに関する知識や理解を深めること。
これらに加えて、活動を持続的かつ柔軟に運営するための「仕組み」が不可欠です。硬直した仕組みではなく、状況に合わせて修正できる柔軟性も重要になります。
4. マンションコミュニティにおける実践事例

ネイバーフッドデザインは、様々なタイプの住宅や地域で実践されています。講演では、マンションコミュニティに関連するいくつかの事例が紹介されました。
フロール元住吉(賃貸マンション)
賃貸マンションは住民の入れ替わりが多く、地域との接点を作りづらいという特徴があります。この事例では、管理人が「守人(もりびと)」というコンセプトのもと、入居者同士のコミュニティ形成や、マンション住民と地域とのハブ役を担っています。
SHINTO CITY(埼玉新都心・分譲マンション):
大規模開発により約1500世帯が一気に入居したマンション。管理組合とは別に自治会を創立し、コミュニティイベントや防災活動を実施する仕組みを構築しました。自治会は任意加入ですが、管理組合とも連携しながら運営されています。
まちにわひばりが丘(UR団地・分譲マンション等)
UR団地の建て替えに伴う大規模な街づくり・エリアマネジメントの事例。ここでは社団法人を立ち上げ、住民自身が運営を担っています。イベントを通じて住民同士のつながりが生まれ、その関係性から防災委員会が自然発生的に立ち上がり、活発な防災活動につながっています。異なるマンションの住民間でも交流が生まれている先進的な事例として紹介されました。
小岩駅周辺地区エリアマネジメント「KOITTO(コイット)」
再開発により居住者が大幅に増加する小岩駅周辺地区の事例。既存の町会自治会の高齢化が進む中で、第三者的な立場で街づくりやコミュニティ醸成を行う団体「KOITTO」を立ち上げています。地域やマンション住民を巻き込んだ活動を進めており、将来的な成果が期待されています。一方で、分譲マンションでは理事会が成り立たないケースも既に発生しており、今後の課題として挙げられています。
5. マンションコミュニティへの示唆と今後の展望
これらの事例やメソッドから、マンションコミュニティ作りには多くの示唆が得られます。単にイベントを実施するだけでなく、明確な目的を持ち、住民の多様な主体性を尊重し、活動しやすい場所と持続可能な仕組みをデザインすることが重要です。
今回の講義は、現代のご近所付き合いが単なる慣習ではなく、孤立防止、災害対策、子育て支援、高齢者見守りなど、暮らしの安心・安全に不可欠な要素であり、それを意図的かつ多様な手法で「デザイン」していくことの重要性を浮き彫りにしました。

講師 髙村 和明様 シニアディレクター/防災士
埼玉県出身 渋谷区在住、3児の子育て中。団地建替に伴うエリアマネジメントの推進役として(一社)まちにわ ひばりが丘の現地常駐事務局長を2015年4月から5年間務め、この2021年の春に組織を住民に移行させた。現在はJR小岩駅の駅前再開発に伴うエリアマネジメント組織「KOITTO」(一般社団法人小岩駅周辺地区エリアマネジメント)の事務局長として、再開発に伴うまちづくりに関わっている。
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