【4月定例会】マンションの資産価値を守る──長期修繕計画のチェックポイントとは
- anzenmanshonproject
- 5月4日
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更新日:5月5日
住まいの安心と資産価値を守るために欠かせない「長期修繕計画」。近年のガイドライン改訂や社会環境の変化により、管理組合にはより主体的な判断と定期的な見直しが求められています。今回のセミナーでは、マンション管理士の中村博幸氏をお迎えし、最新ガイドラインの要点と、実践的なチェックポイントを明快に解説いただきました。

マンションの管理運営において、今や「長期修繕計画」は単なる書類ではなく、居住者の暮らしを守るための“未来設計図”となっています。今回のセミナーでは、マンション管理士・中村博幸氏が、国土交通省が示す最新ガイドラインを踏まえつつ、実務で陥りがちな落とし穴や住民対応の実例も交えて、重要なチェックポイントを整理してくださいました。
長期修繕計画とは何か?
まず確認すべきは、長期修繕計画の本来の目的です。それは、将来発生する修繕工事に備えて費用不足を回避するために、必要な修繕項目や費用を事前に見積もり、計画的に積み立てることにあります。中村氏は「工事の具体的内容は、将来の状況に応じて管理組合が主体的に判断すべきであり、業者任せにしないことが肝要」と強調します。
最新の修繕積立金ガイドライン(令和6年6月更新)
新ガイドラインでは、計画期間は少なくとも30年以上、かつ大規模修繕工事を2回含むことが推奨されています。また、各工事における「周期の幅」が設定され、エレベーターに関しては耐震基準に応じた柔軟な見直しが求められます。修繕とは「竣工時の性能に戻すこと」、改良とは「竣工後の技術進歩を反映させた改善」と明確に定義され、積立方式としては均等方式・段階増額方式のいずれでも、必要に応じた引き上げが必要です。
ガイドラインの改訂により令和6年6月に初めて、段階増額方式の増額イメージが提示されましたが、そこでは、初期の積立金は基準額の60%、計画期間末の30年後でも最大で110%までの引き上げに抑えること、より早期に最終額に引き上げることが提唱されています。ここで基準額とは均等方式で算出された額になります。こうした設計は、初期負担を抑えつつも、将来的な資金不足を防ぐための戦略的配慮です。
制度との連携とガイドライン様式
長期修繕計画は、国交省が推進する「マンション管理計画認定制度」や、日本マンション管理士会連合会(日管連)の「マンション管理適正化診断サービス」、マンション管理業協会の「マンション管理適正評価制度」など、各種制度の要件にもなっており、形式的な存在では済まされません。計画を作成する際は、「様式4-1〜4-3」に定められた必須項目を網羅することが求められます。また、7年以内に見直され、かつ総会で承認されていること、計画内に大規模修繕が2回含まれていることも重要なチェックポイントです。
長周期の工事と「次世代への選択肢」
中村氏は「マンションの寿命を一律に定めるのは困難であり、更新(交換)と更生(延命)という二つの工法を上手に使い分けることが求められる」と説きます。そのうえで、「計画を次世代に託す視点が不可欠。選択肢を残すことが健全な管理」と提起しました。
居住者からの“難問”にどう答えるか
セミナー終盤では、実際の住民説明会で頻出する「答えにくい質問」にも触れられました。たとえば、「生活が苦しくなるから値上げに反対」「ガイドラインを満たしているのに、なぜさらに積立が必要なのか」「長期修繕計画どおりにすべての工事を実施しなければならないのか」といった疑問です。
中村氏は「これらは感情的な反発ではなく、生活に直結する真剣な声である」とした上で、丁寧に対話を重ねながら、資産価値の維持と安全な暮らしの両立を目指すことの必要性を訴えました。また、「“資産価値を上げるために積立金を下げましょう”といった説明は本末転倒」と明言。誤った期待を煽らず、現実的かつ誠実な説明が求められると説きました。
おわりに
マンションの価値は、日々の管理の積み重ねと、将来への備えによって支えられています。長期修繕計画は、その中核をなすものであり、形式的に作成するだけでは意味がありません。今回のセミナーを通じて、管理組合が主体となり、計画を「生きたもの」に育てていく視点が重要であることが改めて確認されました。
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